日本経営管理教育協会が見る中国 第666回 ――磯山隆志

◆LINE利用者の個人情報が中国で閲覧可能に

 LINEは、言うまでもなく代表的な無料コミュニケーションアプリの一つである。LINE株式会社が運営し、2011年にサービスが開始されてから2年も経たずに世界のユーザー数が1億人を超えるなど、たちまち人気のアプリとなった。今では日本国内の月間アクティブユーザーは約8,400万人いるとされ、行政のサービスにも利用されるなど日本の情報インフラの一つとなっている。

 3月17日、システム管理を委託された中国国内の拠点で開発・モニタリング業務を行う技術者が、LINEの利用者の個人情報を閲覧可能になっていたとの報道がなされた。具体的には、日本国内のサーバに保管されている名前や電話番号、メールアドレス、利用者間でやり取りされ迷惑行為として通報されたトークテキストや写真に、中国の技術者4人がアクセス可能な状態にあり、少なくとも32回のアクセスがあったという。

 同日、LINE株式会社は報道に関して、外部からの不正アクセスや、情報漏えいの発生を否定する発表をしたが、日本政府や自治体でLINEの利用を一時的に停止する動きが相次いだ。19日、日本政府の個人情報保護委員会は、個人情報保護法に基づく報告徴収を行い、LINE株式会社は23日に報告書を提出、報告の内容は「LINE社としての今後の方針」として発表した。

 今後の方針の中では、課題として中国で個人情報にアクセスする業務を実施していたこと、トーク上の画像・動画等を国外で保管していたこと、プライバシーポリシーで国名を明示しなかったことを挙げた。その上で、中国における開発拠点および外部委託先における日本ユーザーの個人情報へのアクセス遮断に加えて、LINEのコミュニケーションに関連する機能・サービスに係る機能開発・保守業務や運用業務については、中国での業務を終了するとした。さらに、韓国のデータセンターに保管されているトーク内の画像・動画・ファイルデータの国内移転を6月までに完了するとし、プライバシーポリシーに関しては、国名の明示など、ユーザーへの説明をより一層明確化するとしている。

◆LINEの利用再開はいつになるか

 こうしたLINEの発表があったものの、政府や自治体でのLINEの利用停止は続いた。政府は各省庁が機密情報をやり取りする際のLINEの利用を一時停止すると発表し、埼玉県や北海道など各自治体においてもLINEを利用したサービスや事業を一時停止する動きがあった。一方で、政府は情報発信など機密情報を扱わないサービスにLINEを利用することは許容するとした。また、LINE利用のガイドライン策定に取り組むことを発表した。

 LINEは自治体向けに新型コロナウイルスのワクチン接種予約システムを提供する予定があるなど、社会的に重要なインフラとして認識されている。今回の件は、そのインフラに不安や不信感を抱かせることになってしまったともいえるだろう。LINE社の出澤CEOは23日の会見で謝罪し、ユーザーへの配慮が足らなかったことを認め、また、中国の国家情報法についても配慮が不足していたと認めた。

 中国では国民や組織に情報活動を義務付ける「国家情報法」があるが、今回と同じ問題は他のIT企業も抱えているとの見方もある。IT企業にとって、日本国内で日本人だけで開発・運用体制を構築するのは競争が激化し、グローバル化が進む中で難しさを増しているだろう。一般的に使われているITサービスを使用する上で、同様の問題を完全に払拭することはできるだろうか。

 LINEは、「政府・自治体のみなさま向けの2つの国内化」として、政府自治体向け公式アカウントデータ保管およびデータアクセス完全国内化と、自治体向けコロナワクチン予約システム完全国内化を発表し、国民の不安解消に努めている。しかし、31日には個人情報保護委員会が、LINEと親会社のZホールディングスに立ち入り検査を始めるなど現時点でまだ問題が収まる気配は見えない。今後、LINEが国民の期待に応えることができるか注目される。(写真は、約20年前の情報伝達機器、FAX。提供:日本経営管理教育協会)