日本経営管理教育協会がみる中国 第639回 ――楠田貴康

(1)不確実性が高まる世界

 経済産業省、厚生労働省、文部科学省は2020年5月、ものづくり企業や技術の動向について取りまとめた「2020年版 ものづくり白書」を公開した。2001年より発行開始されて今年で20回目となる。

 今年度国内製造業にとっての大きな課題として、世界の「不確実性の高まり」を取り上げている。近年、急激な気候変動や自然災害、非連続な技術革新、そして新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大の影響によるサプライチェーンの寸断など、製造業を取り巻く環境は急速に変化している。この不確実性の時代における競争で企業が優位なポジションを得るには、単に新しいデジタル技術を導入するのではなく、それを企業が迅速かつ柔軟に対応する能力である企業変革力(ダイナミック・ケイパビリティ)こそが、これからは重要になってくる。不確実性は、世界の政策不確実性指数(1997.1-2020.1)によれば、2008年のリーマンショック以降、「政策不確実性指数」は年々上がっている。特に2018年以降は、米中貿易摩擦などで不確実性が高まり、製造業の経営や企業行動への影響が拡大している。

 そして現在2020年は、何が起こるかわからなくなった時代「新しい常態(ニュー・ノーマル)」となりつつある。

(2)企業変革力(ダイナミック・ケイパビリティ)とは

 不確実な世界では、何が起きても対応できる経営者や組織能力が競争力の源泉となる。これを提唱したのがデビッド・J・ティースの「ダイナミック・ケイパビリティ(企業変革力)」である。

 ダイナミック・ケイパビリティとは、大きな変化に対応して企業の活動全体を変える能力であり、対立的な概念としては、現状を維持する能力のオーディナリー・ケイパビリティがある。白書では、製造業のデジタル化はダイナミック・ケイパビリティ高めることに活用できるとしている。従来のIoTやAIは、オーディナリー・ケイパビリティの視点が中心であったようにも思える。

 具体的事例で見ると、写真フィルムをめぐる、冨士フィルムとコダック社のケースで考えると解りやすい。冨士フィルム(ダイナミック・ケイパビリティ)は、デジタルカメラ普及に伴う環境変化に対して既存の高度な技術や知識資産を再利用・再配置して化粧品や医療関係へと進出していった。一方、コダック社(オーディナリー・ケイパビリティ)は株主主権のもとフィルムにこだわり環境変化に適応できなくなり倒産した。今では、冨士フィルムの関連会社ではアビガンを取り扱っている。このように企業は環境変化に適合していかなければならない。

(3)今後の対応

 不確実性が高い場合は、最終的な意思決定をできるだけ先延ばしし、市場動向をギリギリまで貯めた方が、成功率は高くなる。決して効率性がいいわけではない。ただし、市場動向を見極め、意思決定をした後は、既存の事業・組織を速やかに変更できる柔軟性が求められる。つまり、「状況の変化を見極めてからの対応を急ぐためのデジタル化」が有効である。

 日本の製造業の強みは、製造現場の熟練技能(匠の技)にあるとされてきた。しかし、高齢化などにより、製造技能の継承が問題となるなど、現場の熟練技能に依存することの限界が見えつつある。近年の不確実性の高まりや製品の複雑化により、設計部門への負荷が著しく増大しており、今後日本の製造業は、デジタル化による設計力の強化が必要に迫られる。(写真は、デジタル化による設計。提供:日本経営管理教育協会)