日本経営管理教育協会が見る中国 第632回 ――楠田貴康

(1)短編動画アプリの周りで起こっていること

 若者の間で流行しているスマホアプリに「TikTok(ティックトック)」がある。

 TikTokは、中国のIT企業・バイトダンス・テクノロジー株式会社が運営する短編動画共有アプリである。15秒から1分程度の短い動画を撮影しシェアできるSNSで、10代女子を中心に支持されている。2016年に提供開始され、17年に日本版がリリースされている。

 いま、短編動画共有アプリをめぐって国際政治の荒波が起きている。「TikTokを通じて利用者の個人情報が中国政府に渡るおそれがある」ということを懸念した情報でTikTok禁止という動きがある。TikTok禁止は、中国との国境紛争を抱えるインドが最初である。インド情報技術省が6月29日、「インドの防衛、国家の安全保障、治安を害する活動に従事している」として、TikTokを含む59のスマホアプリを禁止するとした。また、オーストラリアもTikTokが中国政府とユーザーのデータを共有し、国家安全保障上の脅威をもたらす可能性があるという懸念からTikTok禁止を検討していると報じられている。逆に、香港では国家安全維持法施行を受けて、TikTokが香港でのサービス提供をやめるという動きも報じられた。法律の施行で当局から内容の検閲や利用者の情報提供などを求められる可能性が高まったことが理由だとも伝えられている。

 背景とすれば、半導体などの製造業で世界を制覇しつつある中国が、SNSなどのコンテンツ・プラットフォームでも主導権を握るとなると、11月に大統領選があるアメリカにとっては不愉快なことだと思っている。世界的な成功を収めつつあるTikTokに対し、アメリカは悪評を広めたいという思惑があるのではないだろうか。

 今は、日本や米国に会社を設立するのは容易であり、“中国色”を消し去ったSNSを広めることも可能なはずである。そうなると、ひと目でわかる“中国製”アプリだけを警戒するということにも何の意味もなさない。また、個人情報の取り扱いに不審な点があるという話は“中国製”に限ったことでもなく、「日本製だから」「米国製だから」というあいまいな理由で許される時代でもない。

(2)これから考える視点として

 今の時代にあった対応は、他のアプリを含め、「個人情報の収集範囲を今より制限する」という法律を作るのが、誰にとってもベストな落とし所ではないかと思われる。

 TikTokで手に入るものといえば、その大半がダンスの動画と、10代少女の個人情報なのである。そのようなものが、国家戦略上重要な情報になりえるのか、それよりもTikTokにはTikTokでたくさんのユーザーがいて、独自の文化が育まれている。これを全世界で共有することは、大人が子供のことを理解できることに少しは近づく、それをワールドワイドで考えていく機会にすることは重要な視点ではないかと思われる。見方を変えてみればこれから見える世界も大きく変わってくると考えている。(写真は、短編動画アプリを楽しむ様子。提供:日本経営管理教育協会)