日本経営管理教育協会が見る中国 第622回 ――三好康司

 厚生労働省からガーゼマスク2枚が届いた。通称、「アベノマスク」である。このマスクは、5社の民間企業から調達したようであるが、「カビ、汚れ、シミ、ゴム紐の長さ違い」といったクレームが出ている。新聞報道によれば、再検品に6億円かかるとのこと。私は、前職で、ガーゼマスクを海外(中国)で製造し、日本に輸入・販売していた。私の実務経験から、クレームが起きた原因を考えてみたい。

1.ガーゼマスクの製造を甘くみた

 ガーゼマスクは、「タテ」×「ヨコ」の平面縫製であり、ゴム紐を入れて縫うだけの簡単な商品にみえる。婦人服を縫える工場であれば簡単、みたいな感じであるが、左右のゴム紐の長さや伸縮度合いも含め、細やかな管理が必要な商品であり、私も、何度もクレームを受けた経験がある。調達先5社のうち2社は、マスク作りのプロであるが、残り3社は「マスクなんて簡単」と、マスク縫製経験のない海外工場(ベトナムとかミャンマーと言われている)へ発注し、結果としてクレームを引き起こしているのではなかろうか。

2.生地加工に関するノウハウ不足

 ガーゼマスクの生地は、生機(きばた)を晒すという加工工程を経ている。薬剤を調合し、肌色の生機を白くする工程である。晒しの薬剤調合を間違えた場合、薬剤同士が反応しあい、後から黄色い「シミ」のようなものが発現することがある。私も前職で、この薬剤調合の失敗により「シミ」が発生し、数千万円規模のクレームを受けた。今回の調達先のうち、このような現象が起こりうることを事前に知っていた企業は、はたして何社あるだろうか。
 
3.無理な時間短縮

 「とにかく、早く国民に配布したい」ということもあり、政府(厚生労働省)は調達先に、納期面で無理難題を言った気がしてならない。上述の晒し工程では、最後に生地を乾燥する工程が必要であるが、この乾燥時間を短縮すると、「カビ」が発生する可能性がある。また、出荷前には当然、最終検品を行っているはずであるが、この検品時間も短縮していたのではないかとも推測される。さらに、海外渡航が禁止されている状況では、日本人の責任者は海外での最終検品に立ち会うことも出来なかったと思われ、最終検品で不良品を発見することが出来なかった一因となっているのではなかろうか。

 今回の日本での再検品費用6億円については、調達先企業が負担するという声は聞こえてこない。政府支出(すなわち税金)となるのであろうが、海外製造に過度に依存するリスクを改めて思い起こさせる事件であった。(写真は、厚生労働省 配布マスク。提供:日本経営管理教育協会)