日本経営管理教育協会が見る中国 第575回 ――水野隆張

◆欧米を凌ぐファーウェイの海底ケーブル技術力

 世界のインターネット回線を巡る米中の覇権争いに新たな戦線が開かれた。今回の交戦地は海の底である。米国は中国の華為技術(ファーウェイ)によるスパイ活動を警戒し、次世代移動通信システム「5G」から同社を排除しようと大々的な作戦を仕掛けている。一方で、ファーウェイは世界のほぼ全てのインターネットデーターを伝送する海底ケーブル網に食い込もうとしている。

 ファーウェイは10年ほど前に英国との合弁会社を設立し、海底ケーブル業界に参入した。現在、使用中の海底ケーブル(海底に敷かれた光ファイバー線の束)は約380本ある。施設されている海底ケーブルの総延長は約120万キロ。およそ地球の30周分の距離となる。それが大陸をまたぐ音声・データトラフィックの約95%を伝送しており、ほとんどの国の経済や国家安全保障に不可欠な存在となっている。

 つまり、この海底ケーブルを支配した国が全世界の情報を握ることになるのである。海底ケーブルの世界ではファーウェイはまだ新参者であり、シェアも数%でしかない。しかしながら、その技術力は欧米が驚くほどに進歩を示しているという。それ以上に恐れられているのが、海底ケーブルには不可欠な陸揚げ基地局でのファーウェイの技術力であり、それは欧米をも凌ぐとさえ言われているのである。

◆明確な意思を持って中国は米国にとって代わる覇権国家になろうとしている

 米国や同盟諸国の現・元安全保障当局者らは、こうしたケーブルがスパイ活動や攻撃に一段とさらされやすくなっていることに懸念を表明し、ファーウェイの関与によって中国の能力が強化される可能性があると述べている。明確な意思を持って中国は米国にとって代わる覇権国家になろうとしている。

 2015年1月、世界経済会議(通称ダボス会議)に出席した中国の首相、李克強は、次のように宣言した。「中国は世界で進めている一帯一路戦略の一環として、中国の通信関連企業の海外進出を国家として後押しする」。国家主席、習近平が「一帯一路」経済圏構想を掲げてから1年後のことであった。

 このダボス会議での首相発言からおよそ2カ月後、国家発展改革委員会、外交部、商務部の連名で「一帯一路」のアクションプラン、「シルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロードの共同建設推進のビジョンと行動」が発表されている。中国の国家としての意思、通信分野での覇権を握る、がより一層明確となったのである。具体的には、国際通信レベルをあげるため、陸上での国境を越えての光ファイバー網の構築、衛星通信環境の完備、そして大陸間の海底ケーブルの構築だった。

◆海底ケーブルを巡る米中の覇権争いはまだまだ予断を許さない状況にあるようだ

 果たして中国は望み通りの覇権国家になれるのだろうか? 経済力、軍事力では着々とその実績を伸ばしているものの、中国に圧倒的に欠けているのは世界の金融センターとしての機能である。中国が必死になって通貨「元」の国際化を図ろうとしてもドルの地位はびくともしない。

 だからこそ、中国は世界を駆け巡る情報を握る海底ケーブルを押さえ、「元」による決済機能を乗せ、ドルに対抗する「元経済圏」を構築したいのである。しかし、中国には過去に苦い経験がある。それは05年9月、時のブッシュ政権は中国の特別行政区マカオの銀行「バンコ・デルタ・アジア」に対して「資金洗浄(マネーロンダリング)に関与の疑いが強い」として金融制裁を課した。それにより同銀行は一切のドル取引が出来なくなり裏で北朝鮮に資金提供していた中国もこの時は一切北朝鮮への資金供給を断念せざるを得なかったのである。

 その屈辱からおよそ14年、米国によるファーウェイへの金融制裁が行われたのである。通信技術、ハイテク分野での中国の独走に対して、トランプ政権が対抗したのはファーウェイの米国の金融システムに対する詐欺罪での訴追である。

 罪が確定すればファーウェイのドル取引は、一切禁じられることになる。6月3日、ファーウェイは海底ケーブル事業を中国企業に売却することを発表した。しかしながら海底ケーブルを巡る米中の覇権争いはまだまだ予断を許さない状況にあるようだ。(写真は人民元。提供:日本経営管理教育協会)