日本経営管理教育協会が見る中国 第571回 ――水野隆張

 中国の魏鳳和国防相は6月2日、シンガポールで開催中のアジア安全保障会議で演説し、米中貿易摩擦について「対話したいならばドアは開いている。戦いたいなら戦う。準備は出来ている」と述べ、対立長期化を辞さない考えを示した。一方で「戦争になれば世界にとっても災難だ」と語り、米国に歩み寄りを求めた。

◆「China 2049」(原題・THE HUNDRED-YEAR MARATHON)

 一方、2015年に出た「China 2049」(原題・THE HUNDRED-YEAR MARATHON=100年マラソン)という衝撃的な本の著者マイケル・ビルズベリー氏は、ニクソンからオバマまでの歴代政権の対中国防衛政策を担当したパンダハガー、すなわちパンダをハグする人=親中派であり、技術、軍事両面で中国を援助することを政権に促してきた人物である。中国を援助すればやがて民主化で平和的な大国となる―そのような仮説を信じていたのである。

 同氏はその著書の中で「こうした仮説は危険なまでに間違っていた」と書き、それまでの仮説に替えて「過去100年に及ぶ屈辱に復讐すべく、中国共産党革命100周年に当たる2049年までに、世界の経済・軍事・政治のリーダーの地位をアメリカから奪取する」と中国の深謀遠慮に満ちた計画を分析し、対するアメリカの戦略を描いているのである。トランプ大統領はホワイトハウスでマイケル・ビルズベリー氏と会って、このマイケル・ビルズベリー氏の助言を最も心にとめているといわれている。

◆ペンス副大統領の演説とピーター・ナバロ氏の発言

 昨年10月にはペンス副大統領の重要な演説があった。ペンス氏は、中国に対して歴代の米政権は間違っていたとし、中国に「全く新しいアプローチ」を取る「決して屈しない」などと強調した。米国の対中強硬姿勢という基本路線は固まっていたとみられている。ビルズベリー氏の著書は、「孫子の兵法」などの中国古典兵法書も参考にしながら、その「100年マラソン」の戦略を分析している。「勝利を手にするまで、数十年、あるいはそれ以上、忍耐する」「戦略的目的のために敵の考えや技術を盗む」などである。

 中国は覇権を求める手段をアメリカのように軍事力だけに置いておらず、「孫子のような古代中国の思想家が説く、より幅広い戦略では情報、経済、法律が強調される」とマイケル・ビルズベリー氏は述べている。米中戦争の可能性を検証した「米中もし戦わば」の著者、国家通商会議委員長のピーター・ナバロ氏はその著書で「中国製品を買うたびに、われわれ消費者は、自分と自分の国に危害を加えようとしているのかもしれない中国の軍事力増強に手を貸しているのだ」と述べている。ビルズベリー氏の見方にナバロ氏のこのような見解が加われば覇権を窺う中国とそれを抑えるアメリカという構図がはっきりと浮かび上がってくるようだ。

◆最善の策は、戦わないで敵を屈服させるということである

 「孫子の兵法」には「成算のないたたかいにはいどむな」という教訓がある。現在中国とアメリカの軍事力や経済・文化などの力の差にはまだ大きな開きがある。しかしながら、今後アジア地域のパワーバランスは中国の勢力が大いに脅威となることが考えられる。我が国は日米同盟の強化に取り組むと同時にアメリカファーストを基本方針とする米政権にだけ頼ることなく少なくとも初戦においては自国を守れるだけの自衛力を確保すべきではないだろうか。今でも尖閣諸島周辺には中国船が侵入しており、万が一漁民を装った中國民兵が尖閣諸島に上陸でもしたならまずは自国の防衛力で撃退する覚悟がなければアメリカファーストを基本方針とするアメリカ軍の支援は得られないものと自覚すべきであろう。

 「孫子の兵法」では「百戦百勝は善の善なるものに非ず。戦わずして人の兵を屈するは善の善なるものなり」という言葉がある。最善の策は、戦わないで敵を屈服させるということである。米中対立が進むと中国は日本にすり寄ってくる傾向がある。日本に近づいて日米同盟を分断しようという戦略である。日本は外交力を駆使して中国の策略に惑わされないようにすべきであろう。それにしても日本の政治家の国際的な外交力が乏しいことには一抹の不安を感ぜざるを得ない。(写真は、「孫子の兵法」守屋洋著。提供:日本経営管理教育協会)