日本経営管理教育協会が見る中国 第554回 ――水野隆張

◆ダボス会議での安倍晋三首相の存在感

 今年1月22~25日にスイス・ダボスで行われた世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)では、各国でポピュリズムとナショナリズムが台頭し、国際協調や自由貿易の理念が揺らぐ中で、グローバル化の価値をどう再定義するかという課題が盛んに議論された。今年の会議ではトランプ米大統領、メイ英首相、マクロン仏大統領らが、国内の混乱のため欠席したため、政治ショウとしては制裁を欠いた形となった。米欧の首脳がいないダボス会議では、安倍晋三首相が存在感を示す好機となった。日本が主導した電子商取引(EC)の国際ルールづくりで、中国を含む76カ国・地域が正式協議の開始で合意したのは、日本外交の成果と言えるが、6月に大阪で開く20カ国・地域(G20)首脳会議への意欲を語る首相の講演が、大きな反響を呼んだとは必ずしも言えないようであった。

◆米中間の貿易・技術摩擦は長期化すると見られている

 現在、米中間の貿易・技術摩擦は米中両国ともに強硬な姿勢を崩しておらず、平行線を辿っている。米国政府の中国側への要求内容は、技術強制移転政策の転換、中国製造2025の停止、外国企業の国内生産拠点の海外移転などあまりに厳しく、中国政府が妥協できるような中身にはなっていない。米国が脅威として問題視しているのは中国経済の規模が米国に追いつき追い抜いていくことであり、その解決策としては2020年半ばまでに中国経済の成長を止めるしかないことになる。

 そのようなことは現実問題としてはあり得ないことである。米国は20世紀前半に勃発した2つの世界大戦を2度と繰り返さないようにするために、経済ブロック化の阻止と世界経済の協調発展を2つの基本方針として堅持してきたのである。ところが、トランプ政権の「アメリカ・ファースト」政策が米国が戦後長期にわたって貫いてきたこの2つの大方針に真っ向から反する内容を打ち出しているのである。従って、トランプ政権の対中強硬姿勢が変化することは考えられず米中両国の対立は長期化するとみられているのである。

◆日本は厳しい選択を迫られている

 日本は米国の長期にわたる上記2つの基本方針のお陰で戦後の奇跡的な経済復興と高度経済成長を実現した。しかし、トランプ政権は日本に対して同盟国として対中強硬政策への共同歩調を強く求めてくることが考えられる。日本からの輸入品に対する関税引き上げなどの経済制裁を圧力として使いながら対中強硬政策への協調を強く要求してくることが予想される。戦後ずっと米国の経済政策と共同歩調をとってきた日本としては、自由貿易や経済成長までも否定するトランプ政権の基本方針には同調できるものではない。日本では1990年半ば以降、反中感情が強まり、2012年の尖閣問題発生後には一段と悪化し、国民の9割近くが反中感情を抱いているという異常な状況になっている。従って、短期的には有効な対策はまずないと言ってもよいであろう。今後とも日本は厳しい選択を迫られることになるであろう。

◆世界に冷静を求める日本の使命が求められている

 トランプ大統領が「アメリカ・ファースト」という利己主義的政策を堂々と国家政策の基本方針として掲げるのは理性心を失い欲望のコントロールに欠けていると言わざるを得ない。

 もし、世界中の国々が米国トランプ政権に倣って利己主義的な自国利益優先政策を導入すれば、世界は再び経済のブロック化に向かい、経済戦争が武力衝突に発展し、第三次大戦に突入する可能性が高まるだろう。そうならないためには「理性」が強く求められている。日本は江戸時代に「論語」を初めとする中国古典文学を導入して全国的に2万を超える「寺子屋」で子供たちに礼節の重要さを教えて来た。その数は現在の小学校の数に匹敵する。現在では中国古典の学習は行われていないが江戸時代からの道徳教育が脈々と根付いていることには間違いない。

 以前にアメリカ・ニューヨークで停電が起きたとき大略奪暴動が沸き起こったことがある。また中国では反日デモでデモ隊が暴徒化して日本企業が物凄い略奪を蒙った。現在パリでは反政府デモが横行して多くの車などが破壊されている。日本では2011年3.11東日本大震災では夜半に帰宅できない人々が秩序正しく冷静に行動して世界の称賛を買った事例がある。日本の安全性と人々の礼儀正しく親切な態度は今では広く世界に広まっている。今こそ日本がモデルとなって、西洋型政治経済社会制度に東洋思想を取り入れ、社会の安定を図る新たな国家像を広く世界に示すことが求められている。このことは世界中では日本しかできないことである。(写真は、守屋洋著「この一冊で中国古典がわかる!」。提供:日本経営管理教育協会)