アジア全域で最も裕福な華人として知られた李嘉誠(レイ・カーセン)氏が率いてきた長江実業集団が、これまでの富の象徴として所有していた香港や中国本土の不動産を売却し、国外の企業や不動産の買収に資金を振り向け始めている。李嘉誠氏が第一線を退いた今年6月以降に、英国やオーストラリア、イタリアなど海外の資産を次々に買収する計画が明らかになり、「脱・中国」といえる動きが加速している。

 長江実業集団は李嘉誠氏が一代で築いた大コンツェルン。1949年に香港でプラスティック工場を立ち上げた李氏が売り出した造花が「ホンコンフラワー」として大ヒットし、その資金を元に不動産業に進出。1972年に香港証券取引所に不動産開発会社の長江実業を上場。1979年にハチソン・ワンポワ、85年に香港電灯を買収するなどして規模を拡大。現在は、不動産を核として、通信、インフラ、港湾、電力、医薬、バイオ、エンタメなど様々な事業を傘下に収め、世界57カ国で総従業員26万人超を擁する。

 今年5月に経営を長男の李沢鉅(ビクター・リー)氏に譲って第一線から引退を表明した時に、李嘉誠氏の個人資産は約340億ドル(約3兆7000億円)と言われた。李沢鉅氏の後継指名は2012年。十分な引き継ぎ期間を設けて権力の移譲を実施した。

 長江実業グループの富の象徴とも目される香港島中心部にある73階建ての高層オフィスビル「中環中心(ザ・センター)」を402億香港ドル(約5900億円)で売却すると発表したのが2017年11月。香港のオフィスタワービルの売却では過去最高額の取引として注目された。

 そして、李嘉誠氏が引退後の今年6月、オーストラリアのガス会社APAグループを約130億豪ドル(約1兆1000億円)で買収する計画が表面化。その直後に、英ロンドンの高級オフィスビル「5Broadgate」を10億ポンド(約1465億円)で買収したことを発表した。さらに、7月にはイタリアの携帯キャリア最大手のウィンド・トレ(Wind Tre)を24億5000万ユーロ(約3150億円)で完全買収すると発表している。

 この一連の大型買収が、どのような意図を持ってなされているのかは明らかではない。単にグループを引き継いだ李沢鉅氏の旺盛な事業意欲の表れというわけではないだろう。オフィスビルの買収も、ガス供給会社、携帯キャリアも全てグループで行ってきた事業であり、経営ノウハウはある。中国の経済雀が詮索しているのは、「なぜ、中国以外の地域で大型買収に動いているのか?」ということだ。香港では、李嘉誠氏が示してきた抜群の経営感覚を尊敬して李氏を「超人」と呼ぶ。長江実業グループの大展開は、時代の大きな変化を予兆しているのだろうか?(イメージ写真提供:123RF)