「マカオのカジノ王」と呼ばれたスタンレー・ホー氏(96歳)が6月12日に、正式に、そして、静かに実業界から身を引いた。折しも日本では、カジノ法案といわれる特定複合観光施設区域整備法案(略称:統合型リゾート(IR)整備推進法、通称:カジノ法案)を巡る国会での与野党の攻防が続いているが、果たして、日本にスタンレー・ホー氏のようなカジノを切り盛りする人物が現れ、マカオのような地域は誕生するのだろうか?

 スタンリー・ホー氏は、ポルトガルの植民地で寂れた貿易港であったマカオを、東洋一のカジノ地域に発展させた。スタンレー氏は引退したが、娘の何超鳳(デイジー・ホー)氏が老舗カジノの澳門博彩HD(SJMホールディングス)の取締役会主席(会長)を引き継ぐなど、世襲による一族支配は続いている。

 1921年生まれのスタンレー氏は1962年から、2002年にマカオのカジノライセンスの対外開放が実施されるまで、約40年間にわたってマカオのカジノ運営権を独占した。カジノを中心に不動産開発やホテル、フェリー運営など幅広いビジネスを手がけ、一代で莫大な財産を築きあげた。また、中国の犯罪組織、ヤミ金融、北朝鮮、マネーロンダリングなどに関与しているとして、米上院委員会及びカジノ規制当局によって告発もされている。

 マカオの中心地にあるリスボアホテル(葡京酒店)は1970年に開業し、伝説のカジノと呼ばれるほどマカオの発展、そして、スタンレー氏の経営手腕の象徴となった。スタンレー氏は、「リスボア」ブランドでマカオのカジノ20施設を傘下に置くSJMホールディングスの他、香港とマカオを結ぶフェリーの運航や不動産ビジネスを手掛けるシュンタックグループ(信徳集団)、カジノ運営の新濠国際発展(メルコ・インターナショナル)などを創業。これらは香港証券取引所に上場している。

 スタンレー氏は4人の妻と17人の子供を持つことで知られ、SJMの後任のデイジー氏は第2夫人との間に生まれた次女。デイジー氏の実姉の何超瓊(パンジー・ホー)氏はシュンタックグループの主席であり、かつ、米ラスベガスで大規模カジノを経営するMGMリゾーツ傘下のMGMチャイナの大株主で共同会長。実弟の何猷龍(ローレンス・ホー)氏はメルコ・インターナショナルの主席を務めている。

  もっとも同族経営であるだけに一族の勢力争いは激しい。2011年に壮絶な相続権争いが発生した。そのため、スタンレー氏の引退に伴うSJMの経営体制は、娘のデイジー氏の他に、スタンレー氏の第4夫人の梁安琪(アンジェラ・レオン)氏がティモシー・フォック氏とともに「共同主席」に就任し、3人会長体制になったほか、第3夫人の陳婉珍(アイナ・チャン)氏も執行取締役に選ばれた。複雑な統治構造が新たな権力争いを招く可能性もあると指摘されている。(写真は、マカオのグランド リスボア。提供:123RF)