(45)“圆”と“元”どちらが正式?

 今、わたくしの手元にある中国旅行で使い残した紙幣と硬貨を見ると、紙幣の方は“壹圆”“拾圆”“贰拾圆”“壹佰圆”などと、“圆”の字を用い、硬貨の方は“1元”と“元”の字を使っている。

 “圆”と“元”は語源も異なるし、発音ももとは違ったが、今日では共に同じyuánと発音されるところから、両者は通じて使われる。
 筆画数の多い“圆”が正字で、“元”はその略字のように受け取られることが多いようだが(かつてわたくしもそう思い込んでいた)、そうとは言い切れないようだ。

 中国の法定貨幣は正式には“人民币”と称されるが、《现代汉语词典》の“人民币”の項を見ると“以元为单位”(“元”を単位とする)とある。念のために“元”を引いてみると、“也作圆”(“圆”とも書く)とあり、“圆”の方には“同‘元’”(“元”に同じ)とあって、記述に矛盾はない。

(46)“元”と「円」は同源

 今のところ1元は16円だか17円だかで、中国の“元”とわが国の「円」とは値打ちは異なるが、単位としての使い方は、両者は等しい。

 ところが、わたくしが「元(げん)と円(えん)は同じ単位です」と説明すると、「そうかなあ?」と首をかしげる人が多い。「円」は圓の略字であって、発音も「元」とは異なるではないか、と言うのである。

 数学なら圓=円、圓=元、よって円=元ということになるのであるが、現実には円(えん)と元(げん)では発音が異なるので厄介だ。だが、これは中国ではもともと“圆”と“元”では発音が異なった。(ただし意味としては通じるところがあった。)その後、発音の変化があり、“圆”と“元”が同じyuánになってしまった。一方、日本語の方は圓はエン、元はゲンのままで変化はなかったというわけである。

(47)「遠」→“远”日本語では無理

 今日の中国語で、「遠い」という意味の「遠」に簡体字の“远”が使われることは、よく知られているとおりである。言うまでもなく、シンニュウ(辶)のなかの“元”が発音を示しているのである。

 けれども、厳密に言うと、“元”(yuán)と“远”(yuǎn)では、前者が第2声で後者が第3声と、声調が異なる。

 では、“元”の声調に引きずられて、“远”を第2声yuánに発音してしまいはしないか。それはありえない。ことばは文字よりも音が先である。これまで「遠い」ことを第3声yuǎnと言っていた人が、文字に引きずられてyuánと発音することなどありえないことである。

 ところが、「元」はあくまでもゲンであってエンとはならない日本語にあっては、「遠」の代わりに“远”を使うわけにはいかないことは言うまでもない。

(48)「歳」→「才」中国語では無理

 役所の諸届はもちろん、宿帳(やどちょう)(古いかな?宿泊者カード)にしても、さまざまな申込書にしても、たいていは生年月日のほかに年齢を書かされる。この年齢を書く欄には予め(  才)などと「才」の字が印刷されていることが多い。言うまでもなく「歳」の略字である。

 中国語では「歳」は簡体字が“岁”で、suìと発音される。一方、“才”の方はcáiと発音する。というわけで、年齢を表すのに“岁”の代わりに“才”と略すことはできないのである。(イメージ写真提供:123RF)