(33)簡略化は書道の伝承を妨げないか
 
 三部からなる報告書の第一部「漢字の簡略化」の章は、そのおしまいに、
 此外,还有一个问题,就是汉字简化会不会妨碍我国书法的流传和爱好呢?(このほかに、もう一つの問題がある。それは漢字の簡略化がわが国の書道の伝承と愛好の妨げになりはしないかということである。)
としたうえで、“我想是不会的”(私はそんなことはないと思う)と、断定的な口調で言い切っている。ここでの“我”は、言うまでもなく、報告者の周氏自身である。
 だとすると、先に不用意に「超多忙な周総理がこの報告書を起草したとは思えないが」としたのは、いささか軽率であったか。少なくとも、相当量の総理自身の筆が入っているのであろう。
 
(34)書道は芸術であり漢字簡略化の制限を受けない
 
 “是不会的”とする根拠として、
 书法是一种艺术,当然可以不受汉字简化的限制。(書道は一種の芸術であり、言うまでもなく、漢字の簡略化の制限を受けることはない。)
としたうえで、
 简字本来主要是用在印刷上的,我们不可能强制大家必须按照“汉字简化方案”写字。(簡体字はもともと主として印刷に使われるものであり、われわれは「漢字簡化方案」のとおりに書けと、みんなに強制することはできない。)
と、極めて柔軟な進め方を示す。
 
(35)ただし書家の協力も望まれる
 
 因此汉字简化不会对我国的书法艺术有什么不利的影响。(というわけで、漢字の簡略化は、わが国の書道芸術に対してなんら不利な影響を及ぼすことはない。)
とする一方で、
 同时我们也应当欢迎书法家按照简化汉字书写,以提高简字的艺术水平。(それと同時に、われわれは、書家が簡体字で書いて、簡体字の芸術的水準を高めてくれることを歓迎する。)
として、やんわりと芸術家の協力を求めることも忘れない。
 ここにも“稳步前进”、先を急がずじっくりと政策を推進していこうとする態度が、見てとれる。
 
(36)“國”→“国”は日本漢字から
 
 一つ触れ残したが、前回の“并且经过各方的讨论・・・”(かつ各方面の討論をへて・・・)の後に、報告書は
 同时,我们也采用了某些日本简化了的汉字。(同時にまた、われわれはいくつかの日本で簡略化された漢字をも採用した。)
と、述べている。この日本で簡略化された漢字の例としてしばしば挙げられるものに「国」がある。中国には、「國」の略字として囗(くにがまえ)の中に「王」の字を書いた俗字が存在したが、これでは人民中国にふさわしくないとして、採用に異を唱える人が多かった。議論の末、日本で当用漢字として使われている「国」の字がよかろうということになり、これを採用したというのである。(イメージ写真提供:123RF)