(29)彷彿(ほうふつ)させる周恩来調
 
 先に引いた李燭塵氏の文中の“好了疮巴忘了痛”(おできが治れば痛さを忘れる)や“快变成文盲了”(今に文盲になってしまう)にしてもそうだし、今回の“古已有之”(古(いにしえ)より之(これ)あり)、“于今为烈”(今において烈(はげ)しとなす)にしてもそうだが、政府報告書のなかで「のどもと過ぎれば熱さ忘れる」のような民間の俗諺を引いたり、「こんどはこちとらが文盲になってしまわあ」式のべらんめえ口調を持ち出したり、さらに「皆さんのお好きな先例がございます」と保守的な人物や役人が好んで逃げ道に使う常套句を皮肉混じりに折り込んだりと、いささかの堅苦しさも感じさせない。
 
 超多忙な周総理がこの報告書を起草したとは思えないが、郷里の淮安なまりだろうか、それに修学地の天津なまりが加わっているのだろうか、あの独特の口調で読み上げる総理の姿を彷彿(ほうふつ)させる。
 
(30)簡略化は大きな流れ
 
 这个“于今为烈”的主要原因,在于今天广大群众正在开始掌握文字并且迫切要求改革文字,这是历史上任何一个朝代所没有的。(この「今において烈しとなす」の主な原因は、今や広範な大衆が文字を手に入れようとしており、文字を改革することを切実に要求しているからである。このようなことは有史以来、どの時代にもなかったことである。)
 
 汉字字形演变的总的趋势是简化。由于汉字难写,人民群众不断创造了许多简字。尽管历代的统治者不承认,说它们是“别字”“俗字”,简字还是在民间流行,并且受到群众的欢迎。(漢字の形が変化してきた全体の流れは簡略化にある。漢字は書きにくいので、人民大衆はたえずあまたの簡体字を創った。歴代の支配者はそれを「当て字」だの「俗字」だのと言って認めようとしなかったけれど、それでも簡体字は民間で流行し、大衆から歓迎されてきた。)
 
(31)歴代の支配者が簡略化に抵抗するわけ
 
 歴代の支配者が難しい漢字の一点一画をおろそかにせず、簡略化の流れに抗してきたのは、言うまでもなく、文字を独占することによって支配者としての自らの集団を維持せんがためであった。科挙の答案に一字でも誤字が混じっていようものなら、それだけで不合格にされた。
 
 因此,我们应该说,远在文字改革委员会成立之前,人民群众早已在改革文字,而文字改革委员会的工作,无非是搜集、整理群众的创造,并且经过各方的讨论加以推广罢了。(だから、文字改革委員会が成立するはるか以前から、人民大衆はとっくに文字を改革していたのであって、文字改革委員会の仕事は、大衆の創造したものを集め、整理し、各方面の討論をへて、これを推し広めたにすぎないのである。)
 
(32)文字改革委員会は混乱の収拾役
 
 可见使用简字方面存在的一些分歧并不是汉字简化工作引起的,而“汉字简化方案”的制定,目的正在于把这个分歧引导到一个统一的规范。(だから、簡体字の使用の面に見られる若干の混乱は、漢字の簡略化の仕事が引き起こしたのではなく、「漢字簡化方案」の制定の目的は、このような混乱を統一的な規範に変えていくことにあるのである。)
 
 漢字簡略化の仕事を積極的に進めていくことによってはじめて、この混乱現象は次第に収まっていくとする。(イメージ写真提供:123RF)