(93)“这一定是‘嚓’的去杀头”

  他省悟了,这是绕到法场去的路,这一定是“嚓”的去杀头。他惘惘的向左右看,全跟着马蚁似的人,而在无意中,却在路旁的人丛中发见了一个吴妈。很久违,伊原来在城里做工了。(彼は気がついた。これは回り道をして刑場へ行く道だ。これはきっと「バサッ」と首をちょん切られるに違いない。しょんぼりとして目を左右に向けると、蟻のようにぞろぞろと付いてくる人ばかりだったが、思いもかけなかったことに、路傍(みちばた)の人込みの中に呉媽の姿を発見した。ほんとうに久し振りだった。さては彼女は城内へ働きに来ていたのだ。)

 阿Qはしょんぼりとして、芝居の歌一つ唱えずにいる自分が、急に恥ずかしくなった。

(94)“还是‘手执钢鞭将你打’罢”

  他的思想仿佛旋风似的在脑里一回旋:《小孤孀上坟》欠堂皇,《龙虎斗》里的“悔不该……”也太乏,还是“手执钢鞭将你打”罢。(彼の思考は旋風のように頭の中を駆けめぐった。『若後家の墓参り』は勇ましさに欠ける。『龍虎闘』の中の「悔ゆとも詮(せん)なし・・・」も弱々しすぎる。やはり「手に鋼(はがね)の鞭を執りて汝(なんじ)をば打たん」に限る。)

 彼は手を振り上げようとして、両手が縛られていることに気づいた。そこで「手に鋼の鞭を執りて」もやめにした。

(95)“过了二十年又是一个……”

 「二十年たったらまた生まれ変わって・・・」“又是一个好汉”と続く。このセリフ、死刑囚が刑を執行される前に口にするのを、映画や小説で何度も聞いたり読んだりした記憶がある。旧時の中国にはこのような迷信があったのであろう。

 阿Qは混乱した頭の中で、“无师自通”どこで覚えたのか、これまで一度も口にしたことがないことばを途中まで口にした。

  “好!!!”从人丛里,便发出豺狼的嗥叫一般的声音来。(「いいぞ!」、人むれの中から、まるで狼か山犬が吼(ほ)えるような声が起こった。)

 車は休みなく前進する。阿Qは喝采の声を浴びながら、人ごみの中に呉媽の姿を求めたが、彼女の方は彼に目を向けてくれる様子はなく、兵士たちの背中の鉄砲に見とれているばかりであった。

(96)“永远记得那狼眼睛”

 阿Qはそこでもう一度、あの喝采した群衆の方へ目を向けた。

 その刹那(せつな)、彼の思考はまたも旋風のように頭の中を駆けめぐった。

  四年之前,他曾在山脚下遇见一只饿狼,永是不近不远的跟定他,要吃他的肉。(四年前のことである。彼は山のふもとで一匹の飢えた狼に出会ったことがあった。狼は近づきもせず遠のきもせず、彼の肉を食おうとして、いつまでもあとをつけてきた。)

  他那时吓得几乎要死,幸而手里有一柄斫柴刀,才得仗这壮了胆,支持到未庄。(彼はその時、あまりの恐ろしさに死ぬ思いをしたが、幸い手に一挺の鉈(なた)を持っていたので、それにすがって肝をすえ、なんとか持ちこたえて未荘(ウェイチュアン)までたどりつくことができた。)

 だが、いつまでもその狼の眼ことは忘れられない。(執筆者:上野惠司)(イメージ写真提供:123RF)