(85)“举人老爷反而不能睡”

 人としてこの世に生まれたからには、まあたまには紙の上にマルを描かされることもあるだろうとあきらめのついた阿Qは、“孙子才画得很圆的圆圈呢”(孫の代になればまんまるいマルが描けるさ)と、さっさと寝入ってしまった。

 ところがこの晩、挙人旦那の方は眠れなかった。彼は隊長に対してむかっ腹を立てていたのである。挙人旦那はまず第一に贓品(ぞうひん)を追求すべきだと主張し、隊長は第一に賊を見せしめにすべきだと主張した。

 近頃、隊長はもう挙人旦那を重んじなくなっていたのである。

(86)“这是我管的!”

 隊長はテーブルをたたいて言った。

  “惩一儆百!你看,我做革命党还不上二十天,抢案就是十几件,全不破案,我的面子在那里?破了案,你又来迂。不成!这是我管的!”(一罰百戒、一人を罰して百人の見せしめにするのだ。いいですか、我輩が革命党になってまだ二十日もたっとらんというのに、強盗事件がすでに十件を超え、どれも解決しておらん。我輩の面子はどうなる? せっかく犯人を挙げたのに、貴公は世迷いごとを言う! 駄目です! これは我輩の権限ですぞ。)

 挙人旦那はぐっと詰まったが、それでも後へ退かず、もし贓品を取り戻すのでなければ、自分は民政担当の仕事を即刻やめると息巻いた。

(87)“请便罢!”

 ところが、隊長が“请便罢!”(どうぞご随意に!)とつっぱねたので、挙人旦那はその晩、どうしても眠れなかったのであるが、幸いなことに翌日になっても辞職しなかった。

 阿Qが三度目に格子戸からひっぱり出されたのは、挙人旦那が眠れなかった夜の明くる日の午前だった。広間に連れられて行くと、正面にはいつもの坊主頭の老人が座っていた。阿Qもいつもどおりひざまずいた。

 老人はたいへん穏やかに尋ねた。

  “你还有什么话么?”(まだ何か言いたいことがあるかな?)

 阿Qは考えてみたが、何も言うことはない。そこで、“没有”(ありません)と答えた。

(88)“阿Q很气苦”

 すると、大勢の長衣を着た男と短衣を着た男たちが、突然、彼に白い木綿(もめん)の袖無しを着せた。それに何か黒い字が書いてある。

 阿Qは面白くなかった。

  因为这很像是带孝,而带孝是晦气的。然而同时他的两手反缚了,同时又被一直抓出衙门外去了。(なぜならそれは喪服そっくりだったからだ。喪服を着るなんて縁起でもない。だが、それと同時に彼は後ろ手に縛り上げられ、同時にまたそのまま役所の外へ引きずり出された。)

 阿Qは幌(ほろ)のない車に担ぎ上げられた。数人の短衣の男も彼と一緒に座った。車はすぐに動き出した。前方には一隊の銃を担いだ兵士と自警団が、両側には大勢のポカンと口を開けた見物人が、後方はどうなのか、阿Qには見えなかった。(執筆者:上野惠司)(イメージ写真提供:123RF)