(77)“招了可以放你”

  “你从实招来罢,免得吃苦。我早都知道了。招了可以放你。”(ありのまま白状するんだ、痛い目に遭わないですむようにな。とっくにわかっておるのだ。白状すれば許してやろう。)

 首領格の例の坊主頭の老人は阿Qの顔をじっと見つめながら、落ち着き払った、はっきりした口調で言った。

 “招罢!”(白状しろ!)

 と、長衣の男も大声で言った。

(78)“假洋鬼子不准我!”

  “我本来要……来投……”(わたしはもともと・・・自分から来てと・・・)

 阿Qはしばらくぼんやりと考えたすえに、途切れ途切れに返事をした。

  “那么,为什么不来的呢?”(ならば、どうして来ようとしなかったのかな?)

 阿Qが自分から革命軍に「投降」しようとするつもりであったと言いかけたのを、老人は「自首」しようとしたと言おうとしていると受け取って、穏やかに尋ねたのである。

  “假洋鬼子不准我!”(ニセ毛唐が許してくれなかったので!)
  “胡说!此刻说,也迟了。现在你的同党在那里?”(でたらめを言うな、今になって言ったって、もう遅いわ。おまえの仲間は今どこにおる?)

(79)“他们没有来叫我”

  “什么?……”(何ですって?・・・)

  “那一晚打劫赵家的一伙人。”(あの晩、趙家を襲った一味の者だ。)

 趙家に押し入った白い兜に白い鎧の一団を阿Qは革命党であると信じ込んでいるのに対し、坊主頭の老人を頭(かしら)とする取調団は彼らを押入り強盗団として追及しているのであるから、問答はなかなかかみ合わない。

  “他们没有来叫我。他们自己搬走了。”(あいつらはわたしを呼びに来なかったんで。自分たちだけで運んで行ってしまいやがって。)

  “走到那里去了呢?说出来便放你了。”(どこへ逃げたのかな? 言えば釈放してやる。)

 老人はいっそう穏やかな調子で言った。

(80)“你还有什么”

  “我不知道,……他们没有来叫我……”(知りません、・・・呼びに来なかったのだから。)

 だが、こんどは老人は目くばせをし、阿Qはまた格子戸の中へ連れ戻された。

 阿Qが次に格子戸の外へ引き出されたのは二日目の午前であった。

 広間の様子は前のとおりで、奥にやはり坊主頭の老人が座っていて、阿Qはやはりひざまずいて座らされた。

  “你还有什么话说么?”(何か言いたいことはあるかな?)
  “没有。”(ありません。)

 阿Qは考えてみたが、何も言うことはない。それで、こう答えた。(執筆者:上野惠司)(イメージ写真提供:123RF)