(61)“自己之所以冷落的原因”

 心穏やかでないうえに、自分が落ちぶれていくことをひしひしと感じていた阿Qは、秀才が「銀の桃」をもらったといううわさを聞くと、たちまち自分が落ち目にある原因を悟った。

  要革命,单说投降,是不行的;盘上辫子,也不行的;第一着仍然要和革命党去结识。(革命するには、単に仲間入りすると言うだけではだめだ。辮髪を巻き上げるだけでもだめだ。まずやらなければならないことはやはり革命党と懇意になることだ。)

 彼がこれまで知っている革命党は二人だけで、そのうちの城下の一人はとっくに「バサッ!」と殺られていて、いま残っているのはニセ毛唐だけである。もはやニセ毛唐と相談する以外に、ほかに方法はない。

(62)“钱府的大门正开着”

 折よく銭家の表門は開いていた。阿Qはおっかなびっくり忍び込んだ。中に入ってみて、びっくりした。

 中庭の真ん中にニセ毛唐がつっ立っているではないか。全身真っ黒であるのは、たぶん洋服とやらだろう。胸にはあの「銀の桃」をぶらさげている。手にはいつか阿Qが見舞われたことのあるステッキを持っている。すでに一尺余りに伸びた辮髪はすっかりほどいて肩に垂らしている。そのざんばら髪はまるで絵で見るガマ仙人(五代の道士、劉海蟾)のようであった。

 その正面には趙白眼と三人の閑人(ひまじん)がつっ立って、うやうやしく演説を拝聴している。

(63)“不知道怎么说才好”

 阿Q轻轻的走近了,站在赵白眼的背后,心里想招呼,却不知道怎么说才好:叫他假洋鬼子固然是不行的了,洋人也不妥,革命党也不妥,或者就应该叫洋先生了罢。(阿Qはそっと近づいていって、趙白眼の後ろに立った。声をかけようと思ったが、どう呼んだらよいものか分からなかった。ニセ毛唐、これはもちろんよくない。異人さん、これもよくない。革命党、やはりよくない。或いは洋(ヤン)先生と呼ぶべきだろうか。)

 洋先生は、しかしながら、阿Qに気づかない。いましも演説の真っ最中であったからだ。
  “唔,……这个……”,あの・・・、その・・・、阿Qは洋先生の熱弁が途切れるのを待って、思い切って口を開いた。だが、どういうわけか、洋先生とは呼ばなかった。

(64)“滚出去”

 演説を拝聴していた四人は驚いて阿Qの方を振り返った。洋先生もやっと気がついた。
  “什么?”(何だ?)
  “我……”(俺ぁ・・・)
  “出去!”(出て行け!)
  “我要投……”(俺も仲間になろうと・・・)
  “滚出去!”(とっととうせろ!)

 洋先生は葬い棒を振り上げた。趙白眼と閑人たちも怒鳴りつけた。「先生がうせろとおっしゃるのに、おまえはまだ出て行かないのか!」(執筆者:上野惠司)(イメージ写真提供:123RF)