日本経営管理教育協会が見る中国 第454回--水野 隆張

■揺れているトランプ大統領の対中政策

 「強い米国」の復活を掲げるトランプ氏は米中貿易改革も公約の一つであり、選挙期間中には「中国製品の輸入関税を45%にする」と極論を展開し、「中国は米国民が飢え死にすることを望んでいる」と発言するほどの敵意をむき出しにしていた。

 しかし、次期大統領に決まってからのトランプ氏は、選挙期間中とは必ずしも一致しない言動を取り始めた。TPPからの撤退などは公約の確認と言えるだろうが、12月の台湾・蔡英文総統との電話会談や、「一つの中国」への挑発的な発言などは選挙期間中には予想できなかった事態である。

 これらの言動から見ると、トランプ大統領の対中政策が依然としてまだ十分に練られたものではなく、ある種の揺れがあるように思われる。しかし、これらのことも政権を運用する中で徐々にその揺れ幅は縮小されることであろう。

■「偉大なアメリカの復活」

 「偉大なアメリカの復活」や「アメリカ最優先」を打ち出した背景に覇権的対立がトランプ次期大統領が示した最大の公約は「偉大なアメリカの復活」であり、大統領選挙直後の勝利宣言に於いては、「全アメリカ国民の大統領としてアメリカの夢を実現する」と誓った。

 「偉大なアメリカの復活」や「アメリカ最優先」にしても、その背景には、中国などの台頭によって、アメリカのパワーと地位が相対的に低下しつつあるとの深刻な認識が作用しているのは間違いないであろう。

■「中国の夢」

 一方、中国は、「中国の夢」としての「中華民族の偉大な復興」を国家目標とし、欧米が中心になって築いてきた国際秩序に代えて、自国が中心となる国際的枠組み、すなわち「中華的新秩序」の形成を外交戦略の重要な柱に掲げている。

 そこには、既存の超大国と、これに追いつき追い越そうとする新興大国の覇権的対立の構図が見受けられるのである。オバマ大統領は在任中、中国に対して融和的関与政策を採ってきたが、トランプ米大統領は「偉大なアメリカ復活」と「アメリカ最優先」を打ちだしたことで、中国との外交、経済、安全保障・軍事などの分野で両国の摩擦や衝突は避けられず、これからの両国間の戦略・政策調整には大きな困難が伴うことが予想されている。

■ロシアが米国の「脅威対象国」から外されている

 オバマ政権下の直近で出された「国家軍事戦略(2015)」では、米国の安全保障を脅かす国家(脅威対象国)として、ロシア、イラン、北朝鮮および中国を列挙し、「最大の脅威国はロシア」だと名指しで非難していた。しかし最近出されたフォーリンポリシー(2016年12月20日)には「トランプ氏の国防優先事項」が挙げられており、その中ではトランプ氏の4つの優先事項のなかに、ISIS,北朝鮮および中国が含まれているが、従来から一番の脅威としていたロシアが含まれていない。

 もしこのことが事実であり、今後の政策に反映されるということであれば、今後の国際情勢に重大な影響を及ぼす劇的な変化を齎すことになると言わざるを得ない。トランプ氏は選挙期間中にロシアのプーチン大統領を称賛しまくっており、オバマ大統領からは、トランプ氏はプーチン大統領を「ロール・モデル」にしていると批判されていた。

■中国を主敵とした米中の対立が深刻化する?

 このように、トランプ氏によって対ロ戦略・政策の大転換が図られ、ロシアとの改善を目指す融和協調路線が採られるようになれば、逆に中国の脅威がクローズアップしてその矛先が中国に向けられることが充分予想されるであろう。

 今後、南シナ海問題、北朝鮮の核ミサイル開発、「一つの中国」論と台湾などを焦点とした両国の調整が不調に終わればロシアに代わって中国を主敵とした米中の対立が深刻化することになることも予想されるところである。(執筆者:日本経営管理教育協会・水野隆張)(写真は、北京オリンピック当時のスローガン。日本経営管理教育協会が提供)