(37)“我欢喜谁就是谁”

  “好,……我要什么就是什么,我欢喜谁就是谁。

 “…什么…什么”,“… 谁…谁”,なにやら文法書の例文みたいですね、疑問代詞の呼応形。何かを・・・すればその何かを・・・、誰かを・・・すればその誰かを・・・。欲しいものは何だって・・・、好きな、もちろん女でしょうね、阿Qのことですから。阿Qでなくても? コラ! 好きな女は誰でも・・・。“欢喜”はちょっとヘンですね。典型的な南方語です。北方語なら“喜欢”です。

  得得,锵锵!
 Dédé,qiāngqiāng! 太鼓とドラの音をまねたのでしょうね。ドンドン、ジャンジャン!

(38)“我手执钢鞭将你打”

 一杯機嫌の、いや二杯ひっかけたのでしたね(笑)、浮かれた阿Qは唄い続けます。

  悔不该,酒醉错斩了郑贤弟,悔不该,呀呀呀……

 悔不该”は「・・・すべきではなかった」と後悔する場合によく使います。酒に酔って鄭賢弟を誤って斬ってしまったことを悔やんでいるのです。越劇(紹興地方の芝居)『龍虎闘』の中のよく知られた一句だそうですが、わたくしはよく知りません。

  得得,锵锵,得,锵令锵!
  我手执钢鞭将你打……”

 「手に鋼の鞭をとりて汝(なんじ)をば打たん・・・」浮かれた阿Qは、芝居の主役と一体になったようです。

(39)“老Q”

  赵府上的两位男人和两个真本家,也正站在大门口论革命。(ちょうど同じ頃、趙家の二人の男と二人の本当の一族が、門先で革命について議論していました。)

 “两位男人”と敬語の位を用いているところから、この二人は大旦那の趙太爺と息子の秀才であることがわかります。“两个真本家”とあるのは趙白眼と趙司晨。先に阿Qが自分も趙家の親族だと偽ったのを受けて“真本家”と戯れています。

 阿Qは趙家の四人には目もくれず、頭(こうべ)をもたげて唄いながら通り過ぎます。

 “老Q” Qさん、と趙太爺はおずおずと、低い声で呼びかけます。が、Qさんなどと「さん」づけで呼ばれるなどとは思ってもみなかった阿Qは、自分とはかかわりのないことと思い、そのまま通り過ぎようとします。

(40)“现在……发财么?”

 “老Q”、もう一度呼びかけますが、相変わらず反応はありません。

 “悔不该……”、もちろん芝居の文句ですが、趙家の人々に向かって言っているようにも聞こえるところが面白いですね。

 “阿Q”、返事がないので秀才がその名を呼び捨てにします。

 阿Qはやっと立ち止まって、首をかしげて聞きます。“什么?”、何だい?

 “老Q,……现在……”、Qさん、・・・このところ・・・、趙太爺は途切れがちに、“现在……发财么?”、このところ・・・景気はいいかい?(執筆者:上野惠司)(イメージ写真提供:123RF)