(237)觉得世上有些古怪

 呉媽(ウーマー)事件の後、阿Qは世間の様子が少しおかしくなったように思えてくる。

 まず、この日を境に未荘(ウエイチュアン)の女たちが突然みな恥ずかしがり屋になったのだ。女たちは阿Qの姿を見ると、みな門の中へ身を隠してしまう。

 甚而至于将近五十岁的邹七嫂、也跟着别人乱钻、而且将十一岁的女儿都叫进去了。(五十歳に近い鄒(ツオウ)七(チー)嫂(サオ)までが、ほかの女たちと一緒になってバタバタと逃げまどい、しかも十一歳の女の子まで呼び入れてしまうのだ。)

 “这些东西忽然都学起小姐模样来了。这娼妇们……”(こいつら、急にみなお嬢さんのまねをしはじめやがって。あばずれどもが……)

(238)更觉得世上有些古怪

 阿Qがもっと世間の様子がおかしいと気づいたのは、さらに日がたってからのことだ。

 其一、酒店不肯赊欠了;(酒屋がツケにしてくれなくなったこと。)
 其二、管土谷祠的老头子说些废话、似乎叫他走;(土地廟を管理しているクソじじいがなんだかだとくだらんことを言って、追い出そうとしているらしいこと。)
 其三、他虽然记不清多少日、但确乎有许多日、没有一个人来叫他做短工。(どのくらいの日数になるかはっきりは覚えていないが、ともかくかなりの日数、誰も日雇いの仕事を頼みに来なくなったこと。)

(239)一件非常“妈妈的”事情

 酒店不赊、熬着也罢了;老头子催他走、噜苏一通也就算了;只是没有人来叫他做短工、却使阿Q肚子饿:这委实是一件非常“妈妈的”事情。(酒屋がツケにしてくれなくても、がまんすればすむことだ。クソじじいが追い出しにかかったって、つべこべ言わせておくだけのことだ。ただ誰も日雇いの仕事を頼みに来なくては、ひもじい思いをしなくてはならない。これだけはまことにもって「こん畜生」なことである。)

 辛抱しきれなくなった阿Qはお得意の家を聞いて回る。けれども、どの家も様子がヘンだ。必ず男が出てきて、乞食でも追い払うかのように手を振って言うのである。“没有没有、你出去!”ないない、出て行け!

(240)“仇人相见分外眼明”

 これはいよいよおかしい、と阿Qは思った。これらの家ではこれまで手伝いを必要としていた。今になって急にその必要がなくなるはずがない。“这总该有些蹊跷在里面了。”これはきっと裏になにかいわくがあるに違いない。

 気をつけて探ってみると、彼らはみな仕事があれば小Dに頼んでいることがわかった。この小Dという貧乏たれのチンピラは、痩せこけて弱々しく、阿Qの眼からは鬍の王よりも下であった。ところが、このチンピラが彼の飯茶碗を横取りしたのである。

 “仇人相见分外眼明”、仇同士が出会えば、ことのほか眼がさとい。その二人が銭(チエン)家の門前でばったり行き合ったのである。(執筆者:上野惠司 編集担当:大平祥雲)(イメージ写真提供:123RF)