(217)装“假正经”

 “女・・・”と阿Qは考える。彼は「必ず男をひっかけようとする」と思われる女に出会うと,いつも注意して見るのだが,彼に対して笑いかけてくる様子はない。自分に話しかけてくる女の話し方にも,いつも注意して耳を傾けるのだが,よからぬ話をもちかけてくる様子は見られない。

  哦,这也是女人可恶之一节:伊们全都要装“假正经”的。(ああ,これもまた女の憎むべき一面である。彼女らはみな「猫をかぶっている」のだ。)

 「猫をかぶっている」と訳した“假正经”の“正经”(zhèngjing)はまじめであること,ここでは女子が貞節であること。なお,“伊们”の“伊”は第三人称の女性,つまり英語のsheを翻訳するために五四時期に工夫された代名詞で,魯迅も一時期使ったが,後には,はやらなくなった。

(218)呉媽(ウーマー)―趙家のただひとりの女中

 さて,その日,阿Qは趙(チャオ)の旦那の家で一日米つきをして,夕食が済むと台所で腰を下ろして一服吸っていた。よその家だと,夕食を済ますと帰れたのであるが,趙の家では夕食が早かった。ふだんは灯火をともさず,夕食が済めばすぐに寝ることになっていたが,時には例外があった。その一つは息子がまだ科挙の秀才の試験に合格する前で,灯火をともして勉強することが許された。もう一つは阿Qが日雇いで仕事に来た時で,この時も灯火をともして米をつくことが許された。

 この例外によって,阿Qは米つきにとりかかる前に,台所に腰を下ろして一服つけていたのである。そこへ趙家のただひとりの女中である呉媽(ウーマー)が,茶碗や皿のあと片づけを済ませて,やってきてやはり腰を下ろして,阿Qに話しかけてきた。

(219)老爷买一个小的

  “太太两天没有吃饭哩,因为老爷买一个小的・・・”(奥様は二日もごはんを上られてねえ,旦那様が若い女を囲おうとなさるので・・・)
  “女人・・・吴妈・・・这小孤孀・・・”阿Q想。(「女・・・呉媽・・・この若後家・・・」と阿Qは考えた。)
  “我们的少奶奶八月里要生孩子了”(ここの若奥様は8月のうちに赤ちゃんを生みなさるだと・・・)
  “女人・・・” 阿Q想。(「女・・・」と阿Qは考えた。)

(220)我和你困觉!

 阿Qはキセルを置いて,立ち上がった。
  “我们的少奶奶・・・”(ここの若奥様は・・・)
 呉媽は,なおもぶつぶつと言い続ける。
  “我和你困觉,我和你困觉!”(おらと寝ろ,おらと寝ろ!)

 阿Qはいきなり呉媽のそばにより,彼女の前にひざまづいた。
 一瞬しいんとした。
 「ひぁあ!」しばらくぽかんとしていた呉媽は,突然ふるえだし,悲鳴をあげて表へ飛び出し,駆けながら大声でわめきたて,やがて泣き声になった。
(執筆者:上野惠司 編集担当:大平祥雲)(イメージ写真提供:123RF)