中国政府が3日に実施した抗日戦争と第二次世界大戦の勝利70周年を記念する大規模な軍事パレードで、習近平国家主席が「左手で敬礼した」ことが、中国で話題になった。はっきりとした敬礼ではなく、曖昧な動作だが、「計算した上での政治的演出」だった可能性もある。

 まず、注目したいのが習近平主席の表情だ。抗日戦の意義を強調し、勝利を称えた演説でも、最後の部分に「正義は必ず勝つ!」などと唱えた部分以外、表情に乏しかった。

 自動車に乗り、立ち上がって閲兵した際にも、胡錦濤前主席が軍事パレードの際に見せた緊張した表情でもなく、かと言って高揚しているのでもない。「つまらなさそうにしていた」との見方もできるほどだ。

 さらに、習近平主席は車上で、部隊の方を眺めて左手を顔の横まで持ち上げ、斜めにかしげた。「左手で敬礼」したようにも見える。インターネットでは一時、「敬礼の慣例も知らないのか」などの批判も出たとされる。

 多くの中国メディアが同日中に、「単に軍部隊に挨拶しただけ」との記事を掲載した。まず、“あるネット民”の書き込みを紹介。同書き込みは「老子」の一節「吉事は左、凶事は右に属する。君子は左を貴ぶ、用兵は右を貴ぶ」を挙げたという。古い中国の制度では「国をしっかりと治める場合、左側の方向性を好む。戦いの場合には右側を好む」ことになっていたので、「左手で敬礼をしたのは、武力は用いない意思表示」との見方だ。

 ただし人民日報は微博(ウェイボー、中国版ツイッター)の公式アカウントで、「老子」を引用した書き込みに触れた上で、「実際には撮影の角度で(敬礼との)誤解を招いただけ。本当は習近平主席は軍の将兵にあいさつをしただけなのです」と表明。多くのメディアが次々に「単なるあいさつ」と報じはじめた。

 4日午後4時現在(日本時間)、「習近平主席は敬礼の仕方も知らない」との批判の書き込みは見当たらなくなった。

 中国全国、さらに全世界から注目を集める場で、習主席に「不用意な振る舞い」があったとは考えにくい。逆に「計算しつくされた表情や動作」と考えるのが当然だ。

 大規模な軍事パレードは、国内向けには共産党の威信を改めて実感させる効果がある。さらに日本や米国など、中国と対立点のある国に対して「意志と実力を誇示」することになる。しかし一方では、世界全体に「軍国主義」とのイメージを与えてしまうリスクもある。国内で当局が対処に苦慮することもある「排他的愛国思想」を煽り立てる可能性も否定できない。

 習主席は演説中で、中国は他国に対して永遠に「中国が受けた苦しみを与えることはしない」などと強調。さらに兵力30万人の削減も宣言した。中国人民解放軍の現役兵は約220万人と見られているので、1割強の削減ということになる。

 仮に習主席が高揚した表情を浮かべていたのでは、「軍事に熱中」との印象を与えかねない。したがって、各種武器による戦力の誇示とはうらはらに、「熱意のない表情」を浮かべたと考えられる。

 “左手の敬礼”についても、事前からの計算があった可能性がある。ネットである程度話題になってから、老子を引用した上で「武力は用いないとの意思表示」という用意しておいた書き込みをさせる。

 メディアは予定通り、同投稿を記事化。最後に「本当は、単なる挨拶」と追加すれば、「武力不使用の意思表示」説には、当局もメディアも責任を取る必要がなくなる。しかし、読んだ人には「そういうことかも」というイメージが強く残る。

 “左手の敬礼”と関連報道の関係は「仮説」に過ぎないが、軍事パレードに際しての習主席の言動を見るかぎり、中国は同政治イベントが抱えるリスクも十分に認識し、できるかぎり低減しようとしたと考えてよい。

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◆解説◆
 兵力30万人の削減がイメージアップを狙った宣言であることは間違いないが、実際の思惑は不明。人件費の削減分で高性能の兵器を増やし、軍事力を向上させることも可能だからだ。(編集担当:如月隼人)(写真はCNSPHOTOの3日付報道。軍事パレードに臨む習近平国家主席)