中国では4月6日に「遊客不文明行為記録管理暫行弁法(観光客による非文明的行為の記録管理暫定法)」が施行された。国家観光局は同法にもとづき、「悪質な問題を起こした」としてこれまで4人の実名を公開した。いわゆる「観光客ブラックリスト」だ。しかし中国では「処罰が軽すぎる。これでは民度向上は絶望的」などの声が出ている。一方で、メディアでは「有効な手段」との論調が強い。

 同法は、国内外を問わず旅先で秩序や衛生環境、文化財を損ねたり、訪問先の社会に悪影響を与えた場合、問題を起こした者の実名を公開・記録することを定めている。

 これまでに公開されたのは、旅客機内で客室乗務員にカップ麺の中味を浴びせた男女計2人、出発待ちの旅客機の非常出口を開けた男性1人、革命期の共産党軍女性兵士の立像に登り、頭に腰をかけた写真を撮影した男性1人だ。

 中国メディアの華商網(4月26日付)によると、「女性兵士の立像の頭に腰をかけた男性」の写真が4月下旬にインターネットで投稿され、非難が殺到した。当局は男性を特定し、「ブラックリスト」に載せることを決めた。

 中国共産党上海市委員会の機関誌である解放日報は5月11日付で、女性兵士の頭に腰をかけた男性に対して「処罰が軽い」、「これでは、中国人の民度向上は絶望的」などの意見が出たとして「旅先の民度向上問題」を考察する論説を掲載した。

 論説は、中国人旅行客の「非文明行為」が目立つようになったのは、裕福になって旅行をする人が急増したためと主張。「かつての日本や韓国でも、海外旅行の増加期には、海外で批判されたり嘲笑されたことがあった」などとして「旅先での非文明的な行為は、中国人だけの特徴ではない」と論じた。

 ただし、「所構わず痰を吐いたりごみをすてたり、落書きをしたり、行列に割り込みをする」などの行為について、(現実に存在するからには)弁護するつもりはないと主張。その上で、「マナーの問題は2日や3日で育成できるものではない」として、「学習と向上の過程が必要」と論じた。

 マナー向上には「旅行客の自覚と自省」、「外部からの教化と制約」の両方が必要との考えを示した。国家観光局の「ブラックリスト」は「制約の制度化」であり、旅先で「非文明的行為」をした者に、「教訓を長く覚えさせる」と同時に「他の人に警告」する作用があり、中国人の「旅における民度向上」を加速するのは確実との見方を示した。

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◆解説◆
 「旅先における自国民のマナーを向上させたい」との中国当局の考えは理解できるが、上記「ブラックリスト」の制度運用には疑問が残る。まず、「実名公開」についての人権問題も気になるところだが、ここでは触れないことにする。

 実名公開の対象となった4人のうち、「航空機絡み」の案件は、問題発生がそれぞれ2014年12月と15年1月だ。情報公開(記録)は期間は15年3月24-17年3月23日とされた。つまり、「遊客不文明行為記録管理暫行弁法」の試行直前に「情報が確認できた」ことにして、施行日を大幅にさかのぼって同法を適用したことになる。

 また、同法では実名公開の期間を「問題行為の情報が確認できた日から計算して1年から2年間」としている。

 「女性兵士像にかけた男性」の場合、情報の公開(記録)が2015年5月4日から2025年5月3日と、同法条文の「最高でも2年」を大きく上回る10年間となった。中国の「法治の実情」には、とまどうことも多い。(編集担当:如月隼人)(写真は華商網の「女性兵士にまたがる男性」の記事掲載頁のキャプチャー)