中国新聞社は、中国海軍南海艦隊に属する通常動力潜水艦が訓練中、海水密度の小さな水域に入ったために、急速に沈下を始めたことで発生した事故を紹介した。同艦には機関室のパイプが損傷し浸水するなどの被害が出たが、浮上に成功した。緊急事態からの脱出が評価され、同艦に乗り組んでいた艦隊支隊司令官に勲章が与えられた。

 「緊急事態」に遭遇したのは「南海艦隊某支隊」に所属する通常動力の372潜水艦。潜航して訓練をしていた際、海水密度の小さな水域に入ったために浮力不足となり、急速に沈下を始めた。

 同現象は潜水艦乗組員に「自動車が崖から飛び出した」ような感覚を与え、乗組員がパニック状態になってもおかしくないという。同艦の易輝艦長によると「潜水艦に乗り組んで22年になりますが、このような状況に遭遇したことはありませんでした」という。

 沈下にともない、潜水艦にかかる圧力が増大した。機関室でパイプ1本が破裂し、大量の海水が噴出した。

 司令室の拡声器から「機関室でパイプ破損。浸水!」との声が響いた。艦長は浮力を得るすべてのタンクからの排水と機関室の閉鎖を命じた。

 潜水艦内部は、いくつかの水密区画に仕切られている。大量浸水の場合には、浸水した区画を閉鎖して、被害の拡大を防ぐ。ただし、閉鎖された区画内の乗組員は「見殺し」にされることになる。

 372潜の機関室では3人が作業していた。うち1人によると「意味ははっきりと分かっていました。退路を断たれた、3人だけで浸水が止められないと、もう終わりだと」という。3人は機関室閉鎖の際の手順に従って、作業を続けた。

 全艦を挙げての緊急対応が続いた。2分後には、すべての水密区画を閉鎖した。排水を続けるなど事態が発生してから3分後に沈下が止まった。懸吊状態が約10秒間続いた後に、艦は浮上を始めた。

 艦長は、最初の3分間の対応が適切だったために浮上に成功したと説明。「全乗組員が生死の分け目に直面し、沈着冷静で正確な対応をしてくれた。その結果、地獄の入り口から引き返せたわけです」という。

 浮上はできたが、372潜は航行できない状態だった。同艦を観測するための外国の軍艦や航空機もやってきた。そのため、航行能力と潜航能力を回復するための作業が続いた。

 船底に潜り込んでの修理作業では、全身が冷たい海水と油にまみれた。一方で、ディーゼル機関は保護のため、ある程度以上の温度に保つ必要があった。そのため周囲の気温は摂氏50度だった。乗組員の衣服には塩の結晶が浮き出た。機関長は疲労で3度も倒れたが、意識を取り戻すとただちに作業を開始した。

 電気回路は蒸留水とアルコールで繰り返し洗浄し、乾燥させた。修理作業開始してから10時間あまりで、372潜は浮上しての航行能力を取り戻した。その後も修理を続け、翌日には潜航が可能になった。同艦では臨時党委員会会議が開催され、予定されていた訓練行動を継続することが決められた。

 中国新聞社は同件を「艦長は冷静かつ果断に指揮。、すべての将兵は生死を忘れて危険状況を排除。厳しい困難を克服し、任務を続行して完遂した。中国及び世界の潜水監史上の奇跡を作り出した」と評価した。

 緊急事態からの脱出が評価され、同艦に乗り組んでいた艦隊支隊の王紅理司令官に、習近平・中央軍事委員会主席の訓令により勲章である一等立功章が与えられた。また、海軍は372潜水艦に一等立功章を授与した。

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◆解説◆
 上記事故の発生日付は紹介されていないが、勲章授与は8月23日とされているので、それ以前であることは確実だ。

 記事は372潜水艦の型式を直接伝えなかったが、「大洋黒洞(大洋のブラックホール)との言い方がある」と紹介されていることから、ロシアから輸入したキロ型潜水艦と考えられる。

 キロ型潜水艦は旧ソ連で、自国沿岸で対潜警戒任務を行う目的で作られた。配備開始は1980年代前半で、その後は輸出もされるようになった。同型艦は極めて優秀な静粛性も大きな特長とされる。

 これまで中国には12隻売却されたとされる。また、ベトナムとは2010年に6隻の売買契約が成立。現在は2隻が就役しており、今年(2014年)末にはさらに1隻が就役。16年までには6隻すべてが就役する予定だ。

 ベトナム海軍が保有するキロ型潜水艦は建造時期の関係もあり、中国海軍のキロ型潜水艦も能力が高いとされる。

 キロ型潜水艦は水深240メートル程度まで行動が可能で、最深深度は300メートルとされる。潜水艦の最深深度は重要な軍事機密なので正式に発表されることは極めてまれだが、自衛隊の現在の潜水艦は「深度500メートル程度は全く問題ない」とする見方が多い。背景には日本の高度な製鉄技術があるという。(編集担当:如月隼人)(イメージ写真提供:123RF)