日本では「学術論文をめぐる不正」と言えば、内容の盗用や捏造を思い浮かべる人が多いだろう。それどころでないのが中国だ。インターネットでは学術論文の売買情報があふれている。売られている論文は「編集部」が審査したもので「品質も保証」と太鼓判。品揃えも「スーパー並みのよりどりみどり」という。中国新聞社などが報じた。

 李先生は、中国西部のある高等教育機関の若い教師だ。それ以外にもアルバイトをしている。論文売買の仲介代理だ。「現在の論文売買のレベルは、5年前と比べれば、方式も提供するサービスも格段に向上しました」という。

 李先生に紹介された、SNSサイトをのぞく。アカウント名は「翔空論文写作」。扱っている「商品」は医学関連の論文だ。「〇〇の口腔の変形治療と生物細胞の互換性についての研究」、「××の薬物成分と沈痛止血作用の分析研究」などの専門的なタイトルがずらりと並ぶ。サイトを見ていると数分に1本、新たな「論文商品」が掲載される。

 論文1本の価格は3万6000元(約62万9000円)。頭金は2000元だ。本人が論文の内容を確認し「購入」を決めてから残りを支払う。扱っているのは専門の「編集部」だ。スタッフのひとりは、「品質は保証できます」と胸を張った。編集部が確認しており、不合格だった論文は商品にはしないという。

 中国では、自国の産業構造の改革が大きな政策課題になっている。抵抗勢力があったり古い意識がなかなか改まらなかったりで、政府も苦労の連続だ。「論文売買」の業界では、そんなことはない。権力を発動したわけでものないのに、産業構造はどんどんと洗練されてきた。書き手、ブローカー、編集部が分業し、スムーズに連携しあうよになった。顧客のニーズに迅速に応えられる、極めて洗練された業界だ。

 品質向上のための努力も怠りない。書き手は修士や博士などの学位取得者や大学の教師などだが、彼らの原稿がそのまま「商品」になるのではない。次に控えているのが「文章班」だ。より論文らしい文章にしっかり整える。すべては「品質」のためだ。そこには“良心的なものづくりの精神”が、しっかりと根づいている。

 学問の世界で生き抜くには、一定の評価がある専門誌で、定められた数の論文を発表せねばならない。職場における評価、学位の取得、研究費の申請、海外の研究機関への就職、そして、中国における学術界の最高称号である「院士」を得られるかどうか、すべて「発表論文」にかかっている。学問の世界で「飛翔」しようと思えば、「翔空論文写作」はまさに「夢をかなえてくれる」存在だ。

 「翔空論文写作」の創業は2009年。これまでに1万篇以上の「学術論文」を手掛けてきた。中国では「論文市場の売上高は年間10億元(約175億円)以上」との試算もある。

 学術論文の「販売ビジネス」は、学問の世界で身を立てようとする若き研究者だけでなく、特に経済や行政管理の分野では、高級官僚などからも歓迎されているという。(編集担当:如月隼人)