台湾・台南市の頼清徳市長が13日、東京都内で講演した。頼市長はまず、台南市の「深くて広範な文化」を紹介。台南市を訪れる外国人観光客として最も多いのは日本人だが「日本の友人にはもっと来ていただきたい」と訴えた。日台関係については「感情面で良好」とした上で、政治や立法、経済などでもっと緊密な関係を築くべきだと主張し、そのことが「アジアの平和に役立つ」との考えを示した。講演会主催は台湾出身で日本で活動する医療関係者の団体、日本台医人協会。共催は在日台湾同郷会、在日台湾婦女会、日本台湾医師連合、怡友会。

■深くて広範な文化、温故知新の台南

 頼市長はまず、文化面における台南の特色を説明。考古学研究で、5000-7000年前に人が住んでいたこと、先住民族を含め文化財が多いこと、仏教、道教、カトリック、プロテスタントと、台湾における主要宗教の最も古い施設も台南にあるなど、次々に列挙した。

 美術館など新たな施設を盛んに建設する一方で、古い建物の補修や保存にも力を入れている。台湾北部出身の若者が、台南市内に残る古い建物を改造してカフェや画廊として利用されている例もあるという。

■アジアののためにも、日台は政治や立法でもっと緊密な関係を

 頼市長は日本統治時代に築かれた建物や施設にも言及。日本統治時代の裁判所も残っているなどと紹介し、さらに八田与一が建設した烏山頭ダム・嘉南大シュウにも触れた。(〓は土へんに「川」)(解説参照)。頼市長は八田の命日である5月8日には毎年、慰霊式典を行っていると紹介。台南の水道を建設したのも日本人だったと述べ、「日本の友人には、もっと台南に来ていただきたい」、「当時の追憶ができると思う」などの考えを示した。

 頼市長によると、台南市を訪れる宿泊を伴う観光客は年間で延べ300万人。台湾内の他の市や県からの人が圧倒的に多いが、外国人として最も多いのは日本人で18万人。日本人観光客には、もっと来てもらえる余地があるとの考えを示し、企業の進出も歓迎すると述べた。

 現在の日台関係については、双方が「感情面で良好」とした上で、政治や立法などでもっと緊密な関係を築くべきだと主張。経済面では台湾として環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の加入を望むとした。

 頼市長は大陸との関係について、「台湾の対外投資の8割が対中投資」と指摘。台湾として中国大陸に依存しすぎると、吸収されてしまう恐れがあると述べ、だからこそ台湾と日本が共にTPPに加入することが望ましいと主張。日本と台湾が緊密になることは、アジアの平和に役立つとの考えを示した。

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◆解説◆
 烏山頭ダム・嘉南大シュウは、石川県出身の技術者、八田与一が嘉南平野を豊かな耕作地にするためにはどうしても必要と考え、全力で取り組んだ事業。八田は1910年、台湾総督府内務局土木課の技手として就職し、台湾各地の上下水道の建設を手掛けた。

 烏山頭ダム・嘉南大シュウの建設では、日本政府が費用の半額を負担し、残りは組合方式で受益者負担となった。八田は国家公務員の地位を捨て、組合つきの技術者となり、建設を進めた。当時としては「ほとんど考えられない身の処し方」だったという。

 八田はダム建設にあたり、当時としては極めて先進的な工法を採用。当時作られた多くのダムが砂がたまって機能しなくなったが、八田が取り組んだ水利施設は現在も立派に機能している。八田は、工事関係者の福利を重んじ、日本人と台湾人をまったく平等に扱ったなど、人格者としても尊敬されている。第二次世界大戦中の1942年5月8日、乗っていた船が米潜水艦の攻撃を受け沈没し、八田も殉職した。

 八田の生前、完成したダムのほとりに八田の銅像が設置されたが、八田の意向により簡素で威厳を強調しないデザインになった。戦後、台湾に乗り込んだ国民党は、日本人の業績をたたえる記念碑や銅像の破壊を命じたが、八田の銅像は地元の人が隠して守った。現在は再び、展示されている。

 八田与一の慰霊式典は毎年、命日の5月8日に八田の銅像前で行われ、台湾の副総統、台南市長なども参列する。八田の娘や孫も参列し、双方が改めて日台友好を謳う。台湾では日本の統治について、善悪を含めてさまざまな指摘や評価があるが、当時の日本/日本人の功績については、政府要人もきちんと評価する特長がある。

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 頼清徳・台南市長は1959年、現在の新北市万里区に生まれた。台湾大学医学部卒。医師免許取得。米国に留学しハーバード大学公共衛生学部で修士号を取得した。帰国後はしばらく公共衛生分野で活動した。1994年の台湾省長選挙で民進党から立候補した陳定南氏の選挙本部で「全国医師後援会長」を務めたのがきっかけで政界入り。立法委員(国会議員)を経て、2010年11月の台南市長選挙で当選。

 頼市長は、2010年の選挙でも得票率が60.41%に達するなどで、「票の取れる政治家」とみなされている。2012年に雑誌社が実施した台湾全土の市長の支持率調査でも、第1位だった。そのため、いずれは民進党主席(党首)に就任する可能性が極めて高いとの声がある。民進党主席に就任すれば、総統選にも出馬することになる。

 写真は13日の講演会場で、サーチナ編集部が撮影。(編集担当:如月隼人)