香港は1日、1997年同日の英国からの中国への返還から17年を迎えた。現地ではこのところ、中国中央の対香港姿勢を巡り、緊張が高まっている。
6月27日には中国政府が同月10日に発表した「香港白書」が「法治の脅威」になるとして、弁護士らが黒い衣服を身に着けて抗議デモを実施した。一方で、中国共産党機関紙の人民日報は6月30日付で、香港の高度な自治権は保障すべきだが「中央は香港に対する全面統治権を持つ」と指摘する論説を発表した。

■ 香港の“住民投票”、投票数と結果に中国当局狼狽か

 大きなきっかけが、香港で民主化を要求するグループが6月下旬に実施した「住民投票」だった。電子投票などにより2017年に実施される行政長官選出の方法についての民意を探った。人民日報は事前に「投票総数は10万に満たないだだろう。だとすれば、遊びはおしまいだ」などと冷笑する記事を掲載したが、結果は当初発表で約69万人が投票、最終的には78万7767票が集まったとされた。

 しかも、行政長官選出が「西側諸国の基準から見て、真に民主的な選挙でなかった場合、立法院(議会)はどうすべきか」との質問に対して、投票者の87.8%が「否決すべき」との考えを示した。

 人民日報系の環球時報は同月23日付で「香港の違法な住民投票で投票者がさらに多いとしても、13億人はいないだろう」と題する論説を発表。民間が行った住民投票を「違法」と決めつけ、「この投票で香港の政治改革の方向性を決定できると思っているとは、内地の社会からすれば大笑いだ」などと主張する論説を掲載。

 共産党系紙が、「感情的」ともいえる論説を掲載したことは、中国当局側の狼狽(ろうばい)を示すものとも解釈できる。環球時報は「仮に中国各地で同様の投票が行われたら、天下大乱となるのは必定だ」とも主張した。同様の動きが中国内地でも発生することを警戒しているとも読み取れる。

■ 中国政府の「香港白書」、返還以来の香港統治を賞賛

 一方、中国政府は上記投票に先立つ同月10日、「香港白書」を発表。同白書は「香港は150年以上にわたり、植民地統治されていた」、「中国に返還されて以来、民主的政治制度が順を追って安定して発展してきた」などと主張。「香港基本法は、行政長官と立法会のすべての議員を最終的には普通選挙で選ぶと明記している。つまり、法で定めた目標だ」と紹介した。

 香港が中国に返還されて以来、中国当局は香港基本法に基づき、一国二制度を堅持し、香港はさらに繁栄することになったとの内容だが、香港の司法関係者は同白書に、「香港を治める者にとって主体的な基本の政治意要求だ」などと、「愛国要求」が盛り込まれていることに反発。香港基本法にも明記されている「香港の司法の独立を侵犯する恐れ」、「法治主義に対する脅威」として、同月27日に弁護士らが黒い衣服を着用して抗議デモを実施した。

 人数の限られた専門職である弁護士によるデモだっただけに、参加者は数百人とさほど多くなかったが、炎天下での黒衣のデモの光景は人々に強い印象を与えた。香港返還後に司法関係者が行ったデモは3度目だった。デモ隊は香港の高等法院(高裁)から終審法院(最高裁」までデモし、終審法院前で3分間の黙祷(もくとう)を行った。

■ 人民日報が強調「中央は香港に対して全面的な統治権持つ」

 人民日報は6月30日付で「基本法により中央と香港特別区の関係を正しく処理する」と題する論説を発表。「香港は祖国に戻ってからの17年来、長期に渡る繁栄と安定を維持した。これは、中央と香港特別行政区が『一国二制度』を共同で守ったからだ」と主張。

 さらに「中央は香港に対して有する全面統治権は、香港特別行政区の高度な自治権と全く矛盾しない」、「中央は国家のレベルから権力を行使する。特別行政区の自治範囲における作業には干渉しない」と論じた。

 さらに、「一部の人の見方」として、は中央が香港に関与するのは、少なければ少ないほどよい」、「国家による主権の原則は、外交と国防分野に限られるべきだ」、「香港を治める権利は香港側に全面的に引き渡すべきだ」との意見があるとして、それらすべてを「中央と香港の関係について偏った見方であり、誤った解釈である、中華人民共和国憲法と香港基本法の定めに合致しない」と批判した。

 論説は中央が香港に対して持つ権利として、外交や防衛分野だけでなく、香港特別行政区を設置する権利、香港基本法についての修正権と解釈権、行政長官と主要官員を任命する権利、行政長官議会が法律改正についての決定権、特別行政区が制定した法律の監督権、特別行政区予算と決算の記録権(認定権)、特別行政区の終審法院と高等法院任命の記録権、特別行政区の緊急事態宣言権、特別行政区に新たな権利を授ける権利、全国性の法律の特別行政区における実施決定権、行政長官に対する指示権を挙げた。

 人民日報の論説は最後の部分で「一国二制度の方針と、基本法に厳格に依拠しで物事を処理し、中央の全面統治権と香港特別区の高度な自治権の保障を維持し、結びつけて初めて、特別行政区制度の健全な運用がよりよくでき、香港住民の基本的権利と自由が保障され、香港の繁栄と安定が促進される」と主張した。

 なお、中国中央政府も香港で実施された住民投票については「違法で無効」と発表している。たしかに、同投票は民間グループが実施した「アンケート」の域を出るものではないが、当局側が“投票結果”に反した動きを見せる場合、「民意に反した政策を強行」と言うことになる。(編集担当:如月隼人)