中国政府・外交部華春瑩報道官は10日の記者会見で、日中戦争時の1937年、日本軍が南京を占領した直後に発生したとされる「南京事件」と「慰安婦問題」についての資料を、中国政府が国連教育科学文化機関(ユネスコ)に対して記憶遺産への登録を申請したと述べた。申請対象の全容は明らかになっていないが、華報道官は関係者の口述記録も含まれる可能性があることを示唆した。

 中国がこれまでに申請し、登録された記憶遺産としては、「中国伝統音楽録音集」、「清代内閣の内部記録」、「(雲南省のナシ族の伝統象形文字である)トンバ文字の古文献」、「清代科挙の上位合格者表」、「清代宮廷建築家による設計図」、「本草綱目」、「黄帝内経」、「海外に出た科挙と出身故郷との歴史的な通信・送金文書」、「元代におけるチベットの公式文書」の9種だ。

 いずれも文化的価値が高いことに間違いはない。ただし、「元代におけるチベットの公式文書」は、政治的意味合いもあると考えられる。中国は、13世紀から14世紀にかけて中国を支配した元朝がチベットに対して影響力を行使したことをもって「チベットは元朝時代から中国の一部であり続けている」と主張しているからだ。

 しかし、南京事件や慰安婦問題のように、現在の政治情勢と大きなかかわりを持ち、しかも真相の解明を巡り、大いに異なる考え方が存在する問題についての申請登録は、これまでとは異質と言える。

 華報道官は「このたび申請した歴史上の文献は真実であり、貴重であり、重要な歴史価値を有するので、申請の基準を満たしている」と主張。「中国側は南京大虐殺と日本軍に強制された慰安婦についての貴重な歴史文献の申請作業を進めている」、「その目的は歴史をしっかりと記憶し、平和を大切にし、人類の尊厳を守り、この種の非人道的、人権侵害、反人類的な行動を2度と起こさないことだ」と説明した。

 中国政府は2月以降、旧日本軍などの資料で、南京大虐殺や慰安婦などに関連する部分があったなどと複数回、発表している。

 「南京事件」と「慰安婦問題」を記憶遺産への登録申請について、華報道官は記者からの「事実か?」との質問に答える形で説明を始めた。

 同説明の冒頭では、「記憶遺産」について「ユネスコが始めた重要な活動」と説明した上で、登録された対象として「世界的な意義がある手稿、図書館や資料館が保存する貴重な文献、および口述による歴史記録」と述べた。過去にユネスコが過去に登録を認めた「記憶遺産」の種類として「口述による歴史記録」をつけ加えたことは、中国も同種の記録を登録する可能性があると示唆したと理解することが可能だ。(編集担当:如月隼人)