台湾の民主進歩党(民進党)が25日に実施した第15代の主席(党首)選挙で、次期主席に蔡英文氏が決まった。台湾では2016年に総統選が行われるが、現職の馬英九・国民党政権の支持率が低迷を続けていることから、台湾にとって2人目の非国民党総統、初めての女性総統が誕生する可能性が、改めて出てきた。

 民進党内では、現職の蘇貞昌主席と謝長廷元主席(元首相)の対立で、主席選挙の行方が混沌としていた。党内の分裂を避けるために両者とも「不出馬」の紳士協定を結んだため、ほぼ無風選挙で蔡氏が当選した。

 謝元主席は2013年12月に来日して東京大学で講演を行った際、民進党の時期党首について、先行きの不透明さを認めつつ「蔡英文氏が主席になってもおかしくない」と述べた。かなり早い時期から自らの不出馬を決意し、蔡氏当選のために水面下で動きを進めていた可能性がある。

 民進党によると、主席選では14万3527人の民進党員が投票。投票率は65.13%だった。蔡英文氏は得票率83.7%の8万54100票を獲得。もう1人の候補者の郭泰麟氏は5734票(6.29%)だった。

 蘇貞昌現主席は「今回党主席選挙が順調に進められ、党員が民主主義の模範を見せてくれたことを喜ばしく思っている。将来のチャレンジへ向けて、皆で更に力をあわせて進んでいくことを期待している」と述べた。

 蔡英文次期主席は1956年生まれ。台湾大学法学部卒業後、米国のコーネル大学ロースクールで法学修士、英国のロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで法学博士号を取得した。

 李登輝政権下の1990年代に行政や政治にかかわるようになる。台湾と中国大陸の関係を説明する、李登輝主張の「二国論(特殊な国と国の関係と主張)」にも深くかかわったとされる。

 04年に民進党から立法院(国会に相当)選挙に出馬して当選。06年1月から07年5月まで行政院副院長(副首相)を務めた。

 08年3月に民進党第12代主席に就任。同党初の女性党首を務めた。12年の総統選では馬英九総統の再選を阻むべく民進党候補として立候補したが敗北。民進党主席を辞任した。

 特に大きな問題がなければ、民進党は蔡主席のもとで14年11月の地方首長選を戦い、16年の総統選挙は蔡氏が民進党候補者になると思われる。馬英九政権の支持率が低迷していることから、台湾初の女性総統が誕生する可能性が、改めて出てきた。

 ただし蔡次期主席にとっては課題も残る。「主席選から互いに身を引く」ことにしたが、対立が解消したとはいえない蘇貞昌主席と謝長廷元主席の問題など、民進党内における“抗争”に折り合いをつけさせ、国民党との選挙戦に党の総力を結集できる体制を築かねばならない。さらに、反原発や反サービス貿易協定で盛り上がった社会運動を、民進党への支持に結びつける必要もある。

 民進党の原点は、国民党独裁期間における民主化運動だった。そのため、理念先行の人材が多い反面、党内外の組織固めや政局運営などでは「もろさ」もある。国民党に対する不信感が高まった状況下でも選挙で意外に苦戦することも多い。民進党の政治家には、かつて日本で登場した市民運動出身の指導者ほどではないにしろ、政治家としての言動に「もろさ」を感じる場合がある。蔡次期主席にとっては、多くの台湾人が「政権を安心してまかせられる民進党」づくりに励む必要がある。

 馬英九政権については、発効を急いだ中国大陸とのサービス貿易協定で大きな反対運動が発生したが、それ以前からも核四(第四原発)の操業開始問題で、大きな反発が出ていた。蔡氏は2012年ごろから民進党の党是である「脱原発」を明確に掲げ、2013年には核四について、「建設を即時中止し、予算追加には応じない」ことを明確に示すようになった。同問題について「この世代の人が犯した間違いを、次の世代に背負わせるべきでない。これは責任であり、さらに正義の問題だ」と発言した。(編集担当:如月隼人)