中国で、レアアース(希土類)を巡る日本との争いなどで世界貿易機関(WTO)で敗訴したことについて、自国当局を批判する文章の発表され、転載が相次いだ。重慶青年報は3日付で、「中日レアアース戦争」と題する文章を掲載し、「WTO提訴は負け続け」、「主要は原因は関係する官僚と専門家がWTOの規則を理解していないこと」などと、専門家の声を交えて、自国当局を批判した。資源・エネルギー情報の専門サイト国能網や中国有色網などが6日付で同文章を転載した。

 WTOの紛争処理小委員会は3月26日までに、中国のレアアース輸出規制を巡る問題で日本や米国、欧州連合(EU)が中国の措置を不当として共同提訴した件で、日本などの訴えを認めた。同委員会は中国に是正を求める中間報告をまとめ、関係国に通知した。

 重慶青年報は同問題について、「日本の経済産業省が米国とEUに呼びかけた上で、2012年3月13日付でEUに提訴」と紹介し、中国の対外経済貿易大学中国WTO研究院の張漢林院長の「日本が提訴したその最初の瞬間から、中国政府の負けは決まっていた。なぜなら規則違反は事実だったからだ」との言葉を紹介した。

 記事は、法律問題の専門誌「法制晩報」が日本などによるWTO提訴の約1週間後の同年3月20日付で、「中国が資源保護の目的で輸出規制をするのに必要な、自国内の生産や消費を行っているかが問題」などと指摘する記事を発表。結論として「国際的な協力や意思疎通も欠け、独自に関税を引き上げる方法が現行のWTOの枠組みのもとで正当性がないことは明らか」の専門家の見方を紹介した。

 重慶青年報は法制晩報の記事を紹介した上で、「それから2年後に、WTOの専門チームが出した結論は、法制晩報が掲載した中国人専門家の見方と『驚くほど一致』」と表現。それだけでなく、「ボーキサイトやコークスなど工業原料9種類の輸出規制が提訴された件では09年にも敗訴した」と指摘し、「われわれがWTOに加盟して14年になるが、(将来への教訓のための)授業料を払わなくてすむようになるのは、いつになるかも分からない」と論じた。

 記事は、「レアアース戦争敗訴」の予言として、歯に衣を着せない当局批判で知られる、経済学者の郎咸平氏の2012年3月21日の意見表明にも触れた。郎氏は日本などによるWTO提訴について、「関連組織の専門家や官僚の、WTO規則についての能力低下を意味する」と主張し、同時点において、「中国はWTOに26回提訴されで、すべて敗訴」と指摘した。

 郎氏はWTOを巡る理念と現実についても言及。例として旅客機開発を挙げ、まずWTOの「政府は研究開発のために(企業に)補助金を与えてはならない」との規則を紹介し、「欧米でも政府がエアバスやボーイング機開発に補助金を与える場合もあるが、科学研究などの名目にして上手に隠している」と指摘。

 中国では旅客機開発について「498億元の補助をおこなった」などと、政府側が産業育成に対する支持を誇示するように発表していることを取り上げ、WTO規則に違反している「銅鑼(どら)と太鼓を叩いて世界中に告知している」、「輸出した途端、WTOに提訴される」と主張した。

 記事は、2012年時点で、「中国がレアアース紛争で必ず負ける」との予測と共に、中国に偏っていたレアアース生産の全世界への分散と、代替素材の開発などで、「中国は経済面でも政策面でも敗北する可能性がある」との見方が日本で出ていたことも紹介した。

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◆解説◆

 郎氏が示した「航空機開発」の例は、「欧米は事実上のWTO規則違反をしている」との主張が含まれるが、欧米批判というよりも「まず形式面だけでも規則に合致させねばならない」との意識すらない中国側の「ルール意識のレベルの低さ」を批判するものと解釈することができる。

 同記事は専門家やWTOを担当する官僚を批判したが、中国と国際ルールの不整合が発生する“根”は、さらに深いところにもある。

 中国社会における組織は「トップダウン」の傾向が相当に強く、上層部の意向に対しては、実情をよく知る専門家も批判的意見を言いにくくなってしまう。2012年のレアアース輸出規制は明らかに、尖閣諸島の問題で対立する日本を「追い詰めよう」との目的だったが、共産党上層部が「なにがなんでも日本を叩く」と考えた場合、WTOの規則を熟知する担当者らも、「これはまずい」と考えていても、極めて逆らいにくくなってしまう。

 中国でも、日本などがWTOに提訴した直後から複数の経済専門家が「敗訴を予言」していることから、当局内の担当者が輸出規制が規則に抵触する可能性に気づかなかったとは考えにくい。つまり、共産党上層部が「すべてを超えて」支配する体質が、国としての「悪手」に直結したとも理解することができる。

 重慶青年報が、直接言及したわけではないが、記事にはレアアース輸出規制を決めたと考えられる、共産党・政府上層部の対日強硬論者を牽制(けんせい)する意味合いが込められていたと解釈することもできる。

 重慶青年報は中国共産主義青年団(共青団)重慶市委員会の事実上の機関紙。共青団幹部出身者は中国の政界で「団派」などと呼ばれる一大勢力を作っている。「団派」に属する政治家は一般的に、愛国主義の過度の発揚に警戒的とされる。(編集担当:如月隼人)